松本家計画
松本家は福島県双葉郡葛尾村の北端に位置する一軒家である。 その地で人間が生活を営んできた歴史は古く、家の近くには縄文遺跡が存在している。 また、畑から出土する鉄くずは江戸時代のたたら製鉄によるものではないかと言われている。 1946年、松本家一家が移住して以来、その地には代々松本家の人々が暮らしてきた。 数十年の間に増築・改築が行われながら、松本家は現在まで続いている。
2011年3月11日14時46分、葛尾村を含む東北地方一帯を東日本大震災が襲った。 そして同日、福島第一原子力発電所事故が発生する。 津波による電源喪失などが原因で、12日15時36分に一号機、14日11時01分には三号機が水素爆発を起こした。 政府が避難指示を出している福島第一原発20km圏内に葛尾村は位置していなかったが、14日21時15分、村長が全村避難を決断した。 松本家が位置する広谷地地区も例外ではなく、松本家一家は村外移住を余儀なくされた。 4月22日、政府は葛尾村を計画的避難区域に指定し、葛尾村に誰も残ることはできなくなった。 2016年6月12日、村北東の野行地区を除き、葛尾村の避難指示は解除された。
それから6年が経った2022年春、野行地区の避難指示も解除されることになる。 松本家の避難指示も解除されたが、2022年現在、葛尾村を離れた一家の人々はその家にはもう住んでいない。 そして、家の前を通る道はいまだ帰宅困難地域を隔てるバリケードで塞がれている
2021年、松本家に新たな訪問者が顔を出すようになった。 私たち、全国各地から葛尾村を訪れる若者である。松本家次男である松本隼也さんとともに、私たちは時折集まって松本家に泊まりにいく。 村の中心からもさらに遠い松本家で、全国から集まった私たちは話し食べ飲み眠るのだ。 その中で、松本家展は企画された。 松本家展はさまざまな方法で記録した松本家を表現する展示会である。 松本家展では文章で、写真で、模型で、ゲームで、影絵劇で、架空の日記で私たちは松本家を記録する。 それらは事実の記録であることを超えて、作者の心情や理想が投影された個人的な記録である。 いわば、松本家にまつわる物語だ。 それゆえ、ここから始まる一連の展示会や、それをも含めた松本家を舞台とした全ての活動(松本家計画)のテーマを「記録する、物語る。」とした。