想いを耕すものたち

渡部碧

こんにちは!僕は松本さんのお宅のトラクターです!

赤くて大きくて、かっこいいでしょ。僕は松本さん家で、お米をつくるのに活躍していたんです。

毎年毎年、田植えも稲刈りも見守って、たくさんのお米を送り出してきました。みんなに「美味しい美味しい」って言ってもらえました。松本さんは僕の上に乗ったり、寄りかかったりして、暑い日も曇りの日も、涼しい風が秋の香りを運んできたときも、田んぼを眺めていました。僕を操作しているときは、いつだって真剣でした。

そんな松本さんと一緒にお米づくりができて、僕はとっても嬉しかったです!

でも、実は松本さん家は、お米よりもタバコ畑メインで生計を立てていました。

次は鍬さんからお話を聞いてみましょう!

はじめまして。松本家で使われていた鍬です。私はタバコ畑などによく連れて行ってもらいました。

私は農具なので残念ながらタバコの味はわかりませんが、きっと吸っている人には何か、タバコを必要とする理由があるのだと思います。人それぞれ、農具もそれぞれ、悩みに向き合ったり考え事をしたりしたい時間がありますから。

タバコは年間で250万円ほどのお金になったそうです。そのタバコたちを育てるために、私たちは使われました。松本さんたちの手に持ってもらった感触を覚えています。松本さんたちをはじめ、農家の皆さんは、私たちを使ってくれていたときの感触を、重さを、温度を、匂いを、覚えているのでしょうか。

そうそう、松本さん家では、震災前までは牛も育てていたんですよ。一頭40万〜50万ほどで売られていたとか。牛たちはみんな愛嬌があってとても癒されました。会話はできなくとも、表情が見えるのは嬉しいですね。牛を見る松本さんの、優しい表情も覚えています。

私たちがいる納屋には、たくさんの農具が置いてあります。みんな、自分が使われていたときのことを、自分が誰かの役に立っていたことを、誇りに思っています。

また誰かに頼ってもらえる日を夢見て、今はじっと、待っているんです。

毎日毎日、農具みんなで話し合いもしているんですよ。将来のことを。次にお米を作るときは、もっと美味しく、牛を育てるときはもっと元気に。大事に大事に、道具として使ってもらっていた日々を思い出しながら。

いつかまた、作物を植えて、動物を育てて、自分たちが農具として生きるあの日々を、ずっと待っています。

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